緊張型多汗症、精神性発汗


(緊張から起こる汗の治療と対策についての説明)

1.はじめに

緊張から手や顔、わきなどに異常に汗をかいてしまうことで悩んでいる人も多いものです。

これは緊張型多汗症や精神性発汗と言われている症状になりますが、多くの人は、その原因や対策についての正しい情報を持っていないように思います。

つまり、一般的な多汗症と同じように考え、治療や対策を取っているのが現状ではないかと思います。

このページでは、今、実際に緊張による汗のことで悩んでいる人が、より正しい方向の治療や対策を取るためのヒントにして頂ければと思い、作成いたしました。


2.緊張型多汗症、精神性発汗とは

このページで取り上げているのは、人前で緊張し、手や顔、足、脇などに汗が異常に出てしまうということで悩んでいる、緊張型多汗症や精神性発汗と言われる症状です。

この症状は、発汗恐怖症や局所多汗症、多汗恐怖などとも呼ばれることも多いと思います。

そして、汗が出る場所は、手のひら、脇の下、背中、足、顔、頭などと、いろいろですが、この緊張型多汗症や精神性発汗の症状に悩む人が、最近は増えているように感じます。

なお、この症状の中でも、特に手のひらに汗をかく場合は、手掌多汗症と呼ばれることが多いです。

汗かきの体質で、汗が出やすい人がいたり、そうでない人がいるものです。

このように、汗をかくかどうかは、本来、体質的に個人差があるものなのです。

しかし、緊張型多汗症や精神性発汗で悩んでいる人は、自分が人と比べて異常に汗をかいていると感じ、これが気になり、恐怖さえ抱いてしまうものなのです。

そして、注意の方向が発汗の方に向くと、ますます汗をかきやすくなってくるものなのです。

これが森田療法で言っている精神交互作用ということになるのですが、この繰り返しの結果、発汗に対する「とらわれ」が出来、ますます症状が強くなってしまうものなのです。

このように、緊張型多汗症は精神的な要因で起こってくることが、ほとんどなのですが、汗がたくさん出る原因を汗腺の異常だと考え、汗腺をふさぐ手術をして治そうとすることも多いものなのです。

わきがと多汗症は若い女性の悩みとして非常に多く、手術などの治療も広く行われているようです。

しかし、心配性や完璧主義、負けず嫌いといった神経質性格の特徴を持っている場合は、神経症から来ている症状、つまり、緊張型多汗症や精神性発汗の可能性の方が高くなると思います。

そして、神経症から来ている場合は手術や薬による治療よりも、森田療法によって治していった方が確実だと言えるのです。

しかし、今の日本の大部分の病院では、神経症から来ている場合でも、汗腺の異常からくる多汗症と同じように扱い、手術や薬で治そうとする傾向が強いように思います。

そして、このために、自分の発汗異常の症状が神経症から来ているものだと気付かずに、手術や薬に頼ってしまう人が増えているように思います。

しかし、これでは根本的な治療にはならないと言えるのです。

なお、緊張型多汗症(精神性発汗)も、人から変に思われるのではないかという不安がベースになっていますので、対人恐怖症やあがり症、社会不安障害の症状の一つに入ると言って良いと思います。


3.緊張による汗で悩んでいる具体例

参考までに、緊張型多汗症に悩んでいる時の状況の具体例を挙げさせていただきます。



(緊張型多汗症に悩んでいる時の具体例)

・ほんとは、みんなと楽しい話をしながらビラを配って回りたいのだが、そうやっているうちに汗が出てきてしまう気がして、話も早々に切り上げて配るだけ配って戻ってきてしまった。

・まずは朝の通勤電車。
割と外が涼しいと思った日でも、電車の中は結構蒸し暑くて、じと〜っと全身に汗をかいてくる。
それが あるレベルを超えると自分で気になってしょうがなくなり、そうすると汗が止まらなくなってしまう。

・今日は外は割りと涼しいのに、職場に着いて汗をかいていたら周りの人に変に思われるだろうなと考えると、それが、かえって逆効果で、どうしようもなく汗をかいてきてしまう。

・食事の時の汗。一人で家で食べる時などは全然気にならないのだが、一人で近くの牛丼屋に行ったりすると、たまに変に大汗をかくことがある。
また誰かと一緒に食事をする時も、ちょっとした香辛料などで軽く汗をかくのは普通だと思うが、それを気にしだすと止まらなくなることがある。
とにかく気にしだすと余計出てくるから、気にしないのが一番というのは分かっているけど、どうしても気になってしまう。

・最近、何するときにも汗のことを考えていて、食事も何にも楽しむことができない。
こんな生活ほんとに嫌だ!どうにかしたい。

・実は2,3ヶ月前に精神科に行ったことがあり、その時、二種類の薬をもらった。一つは定期的に飲む薬。
副作用は少ないとの話だったが、帰ってネットで調べたら 多くの人が副作用&禁断症状で苦しんでいることを知り、怖くなって飲まなかった。(そういうことがあったので、この医者は信用できず行かなくなった。)
もう一つはデパスという薬。
不安になった時に飲めと言われた。
これが あと2粒残っていたので、今日のように緊張するような時は飲んで出掛けた。
でも今日は、この薬も全然効かなかった。
出会う直前まで、すごくドキドキして たまらなかった。
本当に何が不安なんだか よく分からないのだが、身体がどうしようもなくそうなってしまう。

・本日1時に得意先の初めて会う、営業さんと打ち合わせでしたが、会って名刺交換をしている時点で、体中に暑気がして、あっというまに、額に汗が吹き出てきました。
自分では、解らないのですが、身構えて、緊張しているのか?
汗が気になって、話の合間に、電話をしにいったりして、なんと、元に戻そうとしたのですが、駄目でした。

・発汗については、高校生の時、電車通学しており、いつものように友達と対面席で座っていて、車内が混雑し、また少し暑かったのがあり、じっとしているのに大量の汗が出て、意識するようになった記憶がある。
18歳で入社してからは、 大勢の人前や、若い女性の前では、普通に話していても、赤面や発汗が、たびたび起きるようになっていた。




上に、いくつかの例を紹介させていただきましたが、緊張型多汗症に悩んでいる時は、常に汗のことに注意が向き、これに引きずられて行動している状態だと言って良いと思います。


4.原因

緊張型多汗症は他の対人恐怖症の症状の場合と同様に汗腺などの体の異常から起こるものではなく精神的なメカニズムで起こってくるものなのです。

たまたま、梅雨時に満員電車の中で汗をかいてしまった時に、側にいる人から嫌な顔をされ、自分が人と比べて異常に汗をかいていると感じる経験があったりすると、これが「キッカケ」になり注意の方向が発汗の方に向きやすくなるものなのです。

そして、注意の方向が発汗の方に向くと、ますます汗をかきやすくなるという、森田療法で言っている精神交互作用の作用により、症状が強くなってしまうものなのです。

ですから、何かの「キッカケ」で汗をかき、恥ずかしい思いをしたという「外的要因」が1つの原因だと言って良いと思います。

そして、汗をかくことを異常なことだと考え、汗を止める方法を色々、考え実行してしまうというのが森田療法で言っている気分本位の誤った方向の努力ということになるのです。

そして、これが、もう1つの原因である「内的要因」ということになるのです。

つまり、この「外的要因」と「内的要因」が緊張型多汗症をますます悪化させる原因だと言って良いと思います。


5.誤った方向の治療

さきほども少し書きましたが、今は緊張型多汗症の場合でも皮膚科の病院や美容整形のクリニックなどに行くと汗腺の異常が原因だと考え、治療されることが多いと思います。

具体的には、
1.プロバンサインなどの抗コリン薬(神経遮断薬)や漢方薬などによる薬物療法、
2.イオントフォレーシスというイオン発生装置を使った治療、
3.胸部交感神経遮断手術といった神経を切断する手術や汗腺を除去する手術、
4.ボツリヌス療法(ボトックスという骨格筋弛緩剤により汗腺の働きを鈍くする注射)、
5.レーザー療法、
などが挙げられます。

また、整体や針、灸などのツボ療法で治療しようとしているところもあると思います。

なお、最近、原因の分からない脇汗を「原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)」と呼び、病院での治療に健康保険が適用されるようになったという情報もあります。

しかし、これは製薬会社や病院の政治力によって健康保険の適用になっただけに過ぎず、誤った方向の治療には変わりないと思います。

つまり、原発性腋窩多汗症は緊張型多汗症の一種ですから、先ほども書かせていただいたように原因は分かっているのです。

しかし今の多くの病院では、緊張型多汗症が精神的な要因で起こってくるにも関わらず、汗がたくさん出る原因を神経や皮膚の異常だと考え、汗腺だけに目を向け治療していることが多いと思います。

しかし、これは森田療法の考え方からすると誤った方向の治療ということになると思います。


6.対策

緊張型多汗症の場合は、先ほども書きましたが、汗をかくことを異常なことだと考え、汗を止める方法だけに目を向け対策を取ってしまうために、逆に、よけいに発汗の「とらわれ」を強くしてしまうものなのです。

ですから、汗の症状を感じながらも、これに対する対策を考えず、目の前の「なすべきこと」を1つ1つ、きちんとこなすようにしていった方が良いということになるのです。

つまり、これが森田療法で言っている目的本位の行動ということになるのです。

そして、森田療法の考え方を頭に入れながら、目的本位の行動を積み重ねるようにしていくと、「行きつ戻りつ」しながらも発汗に対する「とらわれ」が薄れてくるものなのです。

そして、こうなれば人前で異常に汗をかくことはなくなってくるものなのです。

ですから、これが緊張型多汗症の場合の最も適切な対策になると思います。

つまり、緊張型多汗症の場合は薬や注射、手術などの治療をしなくても森田療法の学習をしていく中で発汗に対する「とらわれ」が薄れてくれば、これで充分、治ってくるものなのです。

つまり、手術を行ったり、薬を使ったりするよりも、森田療法の考え方を身に付けていくことで治療していった方が、より効果が期待できるものなのです。

繰り返しになりますが、大切なことですので、もう一度書かせていただきます。

緊張型多汗症の場合も、赤面症や書痙と同様に、緊張や不安を感じて当然の時でも、これを異常なものとか、恥ずかしいことと考え、排除しようとしていることが多いものなのです。

そして、このために、ますます緊張や不安を強くし、症状が出てくるという「悪循環」に陥っていると言って良いと思います。

ですから、まず、今は、緊張や不安を感じて当然なんだと、受け止めるようにしていくのが、第一歩になると思います。

そして、この上で、目的本位や「あるがまま」など、森田の考えに従って行動するようにしていくと、緊張や不安を必要以上に大きくしなくて済み、また、少しずつ症状が和らいでくるものなのです。

ですから、まず、自分の症状が、神経症から来ている緊張型多汗症かどうかを、きちんと見極めていくことが大切だと思います。

※なお、この症状に関連する情報については、公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団のHPで医療機関の医師などの解説が載っています。

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